レイラ — 窓辺のクリーム色の猫

レイラと薔薇の市場

Persian Rose Elegance
— Cat Seasoning Collection Vol.01 —
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— 01 —
Scene 1

ある朝、キッチンの窓辺に、見たことのない猫が座っていた。

長くてやわらかなクリーム色の毛。琥珀色の瞳。
まるで遠い国の風をまとったような猫。

「あなた、だれ?」

猫はゆっくりとまばたきをして、窓の外を見た。
その視線の先に、知らない街の気配がした。

— 02 —
Scene 2

気がつくと、そこは乾いた風の吹く、石畳の街だった。

空は深い青。壁は日に焼けた土の色。
どこからか、甘くて少しスパイシーな香りが漂ってくる。

レイラが先を歩く。
振り返りもしない。でも、ちゃんと待っている。
「ついておいで」と言うように、尻尾をゆらした。

— 03 —
Scene 3

角を曲がると、市場だった。

天井から色とりどりの布が垂れ下がり、
木漏れ日のように光が降り注いでいる。

山のように積まれたスパイス。
赤、黄、茶、緑 — それぞれが違う香りを放っている。

サフランの金色。クミンの土っぽい温かさ。
ターメリックの鮮やかな黄色が、指先まで染めてしまいそう。

レイラは、スパイス屋の前でぴたりと足を止めた。

— 04 —
Scene 4

店主のおじさんが、小さな銀の皿を差し出した。

皿の上に、花びら。
深い紅色の、乾燥した花びら。

「バラだよ。食べてごらん」

——え? バラを、食べる?

あの、花瓶に飾るバラを?

おじさんは笑った。
「この国では千年も前から、バラは食べるものだよ」

— 05 —
Scene 5

恐る恐る、一枚を口に入れた。

舌の上で花びらがほどけて、
甘い香りが鼻の奥までのぼっていく。

薔薇の香水みたいなきつさはない。
もっとやわらかくて、どこか懐かしい甘さ。

「おいしい……」

レイラが足元で、満足そうに目を細めた。

— 06 —
Scene 6

おじさんが市場を案内してくれた。

バラの花びらを練り込んだ飴。
バラ水で香りづけしたピスタチオのお菓子。
バラのジャムを浮かべた紅茶。

「バラはね、料理にも使うんだよ」

羊肉の煮込みに、砕いたバラの花びらとスパイス。
焼きたてのパンの上に、バラのジャムをたっぷり。

バラが、料理の「香りの柱」になっている。
花じゃない。食材だ。

— 07 —
Scene 7

市場の奥にある小さな食堂。
おばさんが、大きな鍋で何かを煮ていた。

「座りなさい。食べていきなさい」

テーブルに出されたのは、
バラと羊肉のシチュー。ざくろの実をちらして。

最初のひと口で、目を閉じた。

バラの香りが、羊肉の旨みをやわらかく包んでいる。
ざくろの酸味が、そのやわらかさに輪郭を与えている。

こんな味、知らなかった。
知らなかったのに、どこか懐かしい。

レイラが椅子の下で丸くなっていた。
「ね、おいしいでしょう」と言いたげに。

— 08 —
Scene 8

帰り道、市場のおじさんがバラの花びらを包んでくれた。

「持って帰りなさい。あんたの国でも作れるよ」

紙の包みから立ちのぼる、甘い香り。
この香りごと、持ち帰りたい。
あの味を、自分のキッチンでもう一度。

レイラが、ふいに足を止めた。
もう一度だけ、振り返って市場を見た。

そしてまた、前を向いて歩き出した。

— 09 —
Scene 9

日本に帰ってきた。
いつものキッチン。いつもの窓辺。

でも、あのバラの香りが忘れられない。

「バラを食べる文化」を調べてみた。

すると、ペルシャだけじゃなかった。

中国では「玫瑰(メイクイ)」と呼ばれる食用のバラが、
唐の時代から千年以上、大切に育てられてきた。

古くから料理やお茶に使われてきた、食べるためのバラ。

— 10 —
Scene 10

もっと驚いたことがあった。

そのメイクイが、日本でも育てられていた。
富山の、海の近い静かな町で。

無農薬で、丁寧に、一輪ずつ手で摘まれる
「食香バラ」という名前の花。

花びらを触ると、ペルシャの市場で出会ったあの花びらと
同じようにやわらかくて、同じように甘い香りがした。

ペルシャと、中国と、日本。
遠い国々が、一枚の花びらでつながった。

— 11 —
Scene 11

あの市場で買ってきたスパイスたちを、テーブルに並べた。

ゲランドの塩。オールスパイス。ローリエ。
トマトパウダー。
そして、富山の食香バラの花びら。

旅の記憶と、日本の食材。
少しずつ混ぜて、香りを確かめて。

「あ、これだ」

あの食堂のおばさんの味とは違う。
でも、あの市場を歩いた記憶が、ふわっと戻ってくる香り。

それが、ひとつのシーズニングになった。

— 12 —
Scene 12

今日の晩ごはんは、魚のソテー。

いつもなら塩と胡椒だけ。
でも今日は、あのシーズニングをひとふり。

フライパンから立ちのぼった香りに、思わず声が出た。

「……ペルシャだ」

バラの甘い香りが、魚の焼ける匂いと重なって、
キッチンが一瞬、あの市場になった。

— 13 —
Scene 13

食べてみた。

魚のふっくらした身に、バラの華やかさ。
ゲランドの塩味の奥にある、やさしい甘さ。

ペルシャの味のコピーじゃない。
日本の魚だから出せる、新しい味。

旅の記憶と、自分の食卓が、重なった瞬間。

「おいしい。これ、新しい "おいしい" だ」

— 14 —
Scene 14

窓辺に、レイラがいた。

いつの間にか戻ってきていた。
夕日に照らされたクリーム色の毛が、薔薇色に光っている。

「また連れて行ってくれるの?」

レイラはゆっくりまばたきをした。

窓の外に、知らない街の気配がした。
次はどんな味に出会えるんだろう。

Persian Rose Elegance
ペルシャの市場で出会った、バラのシーズニング。
Persian Rose Elegance

ペルシャの知恵。中国1300年の歴史。日本・富山の食香バラ。

三つの国の「バラを食べる」文化が、ひとつになりました。

いつもの料理にひとふり。
あなたのキッチンが、世界とつながります。

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